ランニング・ロジック 第1章

第14話:全身「黒」コーデの落とし穴。夜道で私が「ステルス機」になってしまった夜

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闇夜のステルス機能

新しいウェアの快適さは、私のランニング生活を劇的に向上させてくれた。 吸汗速乾の黒いTシャツの下に、黒の長袖コンプレッションウェアを着込む。 下は黒のショートパンツに、これまた黒のタイツ。 そして足元には、汚れの目立たない黒の厚底シューズ。

全身を黒(ブラック)で統一した私は、夜のショーウィンドウに映る自分の姿を見て、密かに悦に入っていた。

たいち
たいち

コンプレッションもさらっとしてて着心地がいい。シュッとして見える。

 膨張色を排除したことで、実際よりも少しだけ痩せて見える気がする。 それに、この「闇に溶け込むようなスタイル」が、なんとなく速いランナーのような雰囲気を醸し出しているようで、私はこのコーディネートを気に入っていた。

しかし、その「闇に溶け込む」という特性が、まさか命取りになるとは思ってもみなかった。

ある金曜日の夜。 私は自宅を出てすぐ、駅へと向かう裏路地を走っていた。 街灯が少なく、人通りもまばらな住宅街の道だ。 新しいウェアのおかげで汗の不快感もなく、私はいつもよりペース良く足を運んでいた。

T字路のカーブに差し掛かった時だ。 ブロック塀の死角から、何かの気配を感じた。 音はない。光もない。ただ、空気が動いたような微かな感覚。

「ん?」と思った瞬間、目の前に黒い塊が現れた。 無灯火の自転車だ。

向こうも、直前まで私に気づいていなかったのだろう。 私が「あっ」と声を上げるのと同時に、自転車が大きくハンドルを切った。

キキーッ!

タイヤが砂利を噛む音が響き、自転車が私のスレスレを通り過ぎていく。 風圧でTシャツが煽られるほどの距離だった。 ハンドルが私の腕をかすめるような感覚。

たいち
たいち

……っぶねぇ

 心臓が凍りついた。  あと数センチ。もしどちらかの反応が遅れていたら、間違いなく正面衝突していた。  自転車の男性も驚いた顔でこちらを振り返り、バツが悪そうにペダルを漕いで走り去っていった。

 私はその場に立ち尽くし、震える膝を押さえた。  怒鳴りつけたい衝動が一瞬湧いたが、すぐに冷ややかな事実が頭を支配した。

 「相手が悪かったのか? いや、違う」

 もちろん無灯火は危険だ。  だが、私の方にも落ち度はなかったか?  街灯のない暗い道。全身真っ黒のウェア。  相手からすれば、私は「突然闇の中から現れた影」でしかなかったはずだ。

たいち
たいち

俺は今、道路上の『ステルス機』になっていたのか。

 心臓が凍りついた。 あと数センチ。もしどちらかの反応が遅れていたら、間違いなく正面衝突していた。 自転車の男性も驚いた顔でこちらを振り返り、バツが悪そうにペダルを漕いで走り去っていった。

私はその場に立ち尽くし、震える膝を押さえた。 怒鳴りつけたい衝動が一瞬湧いたが、すぐに冷ややかな事実が頭を支配した。

「相手が悪かったのか? ……いや、違う」

もちろん無灯火は危険だ。 だが、私の方にも落ち度はなかったか?

街灯のない暗い道。 全身真っ黒のウェア。 相手からすれば、私は「突然闇の中から現れた影」でしかなかったはずだ。

私は自分の姿を見下ろした。 アスファルトの暗闇に同化する、黒い服。 これでは、ドライバーや自転車から見えるわけがない。

たいち
たいち

俺は今、道路上の『ステルス機』になっていたのか

「誰にも見られないように」と選んだ夜の時間帯。 「痩せて見えるから」「カッコいいから」と選んだ黒いウェア。 それらが全て組み合わさって、私は自分自身を「見えない危険物」に変えてしまっていたのだ。

もしあのままぶつかっていたら、私はただの被害者では済まなかったかもしれない。 「見えなかった」と言われれば、それまでだ。

安全とは、自分が気をつけるだけでは成立しない。 相手に気づいてもらうことこそが、最大の防御なのだ。

私は恐怖で少し冷たくなった体をさすりながら、再び走り出した。 もちろん、道の端を、周囲に全神経を集中させながら。 次なる課題は明確だった。 「いかにして、夜道で自分の存在を主張するか」。 カッコよさよりも何よりも優先すべき、命を守るための課題だった。

-ランニング・ロジック, 第1章