ランニング・ロジック 第1章

第12話:エンジンの熱暴走。順調な私を襲った「梅雨」という魔物

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エンジンの熱暴走

6月の下旬。私のランニング生活は順調そのものだった。「頑張らなくていい」というLSDは、私の性格に合致していたし、少しずつ引き締まってきた体は自信を与えてくれた。

 だが、私は甘く見ていた。四季のある日本において、ランナーにとっての最大の敵が、すぐそこまで迫っていることを。

梅雨入りと同時に、空気は一変した。 夜になっても気温が下がらない。湿度は不快なほど高い。 玄関を出た瞬間に、まとわりつくような重たい熱気を感じる。 まるでミストサウナの中を歩いているようだ。

たいち
たいち

うわ、今日も空気が重いな

それでも私は、「継続こそ力なり」と自分に言い聞かせ、いつものように走り出した。 装備は、着心地が良くて気に入っている厚手のコットンTシャツと、スウェット生地のハーフパンツ。 これまでは何の問題もなく私を支えてくれていた、信頼できる標準装備だ。

 走り始めて5分。  手首のGPSウォッチが「ピピッ」と警告音を鳴らした。

たいち
たいち

……ん? いつも通り走ってるのにどうした

画面を見る。 ペースはいつも通りの「キロ9分」。ゆっくりとしたジョグだ。 だが、心拍数のゾーンを示すバーを見て、私は目を疑った。

いつもなら余裕のある「グリーン(脂肪燃焼ゾーン)」で安定しているはずのグラフが、すでに「イエロー(有酸素運動の上限)」を振り切り、「レッド(無酸素運動)」に突入しようとしていたのだ。

私はすぐに自分の胸に手を当ててみた。 トクトクトク……。 速い。明らかに鼓動が速い。 データは正確だ。異常なのは、私の体の方だ。

たいち
たいち

落ち着け。まずは給水だ

私は安全のために足を止め、自販機でスポーツドリンクを買った。 冷たい液体が喉を通り、胃に落ちる。 これで一息つけるはずだ。そう思った。

しかし、再び走り出しても、心拍数は高止まりしたままだ。 なぜだ? 水分は摂った。ペースも落とした。 なのに、体の中に熱がこもって、どうしても外に逃げていかない感覚がある。

私は自分の着ているTシャツに目を落とした。 お気に入りのコットン素材は、私の汗をしっかりと吸い取ってくれている。 その吸水性の高さは普段ならメリットだが、この高湿度の夜においては、状況が違った。

たっぷりと水分を含んだ生地は、乾燥することなくズッシリと重くなり、肌に隙間なく張り付いている。 これでは、皮膚が呼吸できない。 本来なら、かいた汗が蒸発することで気化熱を奪い、体温を下げるはずだ。 しかし、飽和状態になったTシャツが「濡れた蓋」のようになってしまい、私の体温を閉じ込めてしまっているのだ。

たいち
たいち

今日はこれ以上、危険だな

1キロ程度走ったが、私は撤退を決断した。 無理をして倒れては元も子もない。勇気ある撤退もまた、マネジメントの一つだ。

私はトボトボと歩いて引き返した。 濡れたTシャツが肩に食い込む重さを感じながら、私は痛感していた。 順調だった私に足りなかったもの。 それは、夏という過酷な環境(ステージ)に対応するための、新しい装備(ギア)だったのだ。

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